自立支援介護

できないことをお世話する『介護』から、自分でできるをサポートする『介護』へ

~栗田病院グループの“”自立支援介護“”の実践~

【自立支援介護とは?】

皆さんが普段イメージされている介護は、病気や加齢により介護が必要となった高齢の方に対し、できないことをスタッフがつきっきりでお世話をする「お世話型の介護」ではないでしょうか?

『自立支援介護』は、2016年11月の未来投資会議の中で、「介護でもパラダイムシフトを起こす。これまでの高齢者ができないことをお世話する介護が中心のケアから、高齢者が自分でできるようになることを助ける「自立支援」のケアに軸足を置く。本人が望む限り、介護が要らない状態までの回復をできる限り目指していく」と提言され、今注目されている新しい介護のかたちです。

栗田病院グループでは、その人がその人らしく地域で安心して、そして、自立した生活が送れるよう健康の維持・増進を目指した介護を実践します。

※1未来投資会議…国や地方の成長戦略を議論する会議。内閣総理大臣を議長とし、関係閣僚や企業の代表らなど有識者が議員を務める。

【自立支援介護の4つの基本ケア】

介護保険における自立とは、介護を必要とする高齢の方が、できる限り自身の能力を発揮し、在宅生活を続けられることを指しています。
そのためにもっとも重要とされるのは、次の4つの基本ケアです。

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1.水分ケア

人が生きていく上で「水」は必要不可欠なものです。成人の身体の約60%、高齢の方では約50%を水分が占めているといわれています。
高齢になると、喉の渇きを感じにくくなり、水分摂取の進まない方も少なくありません。身体の中の水分量が不足すると、活動性が低下し、様々な健康障害のリスクが増えます。高齢の方では、体内の水分が1~2%失われるだけで意識障害が起きるといわれており、それくらい「水分」は大事なのです。
自立支援介護では、1日の水分摂取量を1,500ml以上必要とされているため、水分摂取をこまめに促す事が大切です。

○当グループでの実際の取り組み
  • お茶だけでなく、様々な飲料水をそろえて水分摂取を促しています。例えば、スポーツドリンク・紅茶・リンゴジュース・オレンジジュース・カルピス・炭酸飲料等です。個人の嗜好に合わせながら種類を増やして対応しています。
  • 個別に水分量を設定して、1日掛けて設定した水分を摂取いただいております。

1.食事(栄養)ケア

「水」と同じように、食事(栄養)も人が生きる上で必要不可欠なものです。
自立支援介護では、身体の機能を維持するため、高齢の方でも1日3食1,500kcal以上摂取することが理想といわれています。
食事量・栄養量が十分でないと、身体を動かすエネルギーや筋力が足りず、あとに示す適切な運動ケアを行うことができなくなってしまいます。
そして、食事ケアにおいてもう一つ重要なことは、“何を食べるのか”というところにあります。食事は文化としての側面があり、そしてそれぞれの時代の文化を象徴する食事はすべて“常食”の形態であるからです。食事形態をなるべく“常食”で食べていただく事で、“咀嚼し、唾液を分泌させ、舌の動きから食塊を作り、飲み込みが良くなる”事に繋がります。

○当グループでの実際の取り組み
  • 今まで柔らかい食事に慣れていると、常食への移行は口腔内や胃に負担をかけてしまいます。状況や個人に応じて段階的に常食に移行できるようにしています。

1.運動ケア

日常生活ではさまざまな筋肉(筋力)を使っています。運動ケアを行い、筋力の維持・向上を目指すことは自立した生活を行う上で非常に重要です。
特に「歩行」は全身の協調運動といわれ、その「歩行」を行う事でより効率的なリハビリが行えます。
もちろん過度な運動は危険ですが、本人のペースを尊重しながら、積極的に歩くこと(身体を動かすこと)を意識しています。
歩けないという状態は、“歩き方を忘れた”ためであって、下肢筋力の低下などではないと考えることが重要です。
さらに、「歩行」を行う事で刺激が増え、脳が活性化し、便意や排せつのコントロールができるようになり、夜間の失禁を防ぎ、睡眠の質向上にもつながります。

○当グループでの実際の取り組み
  • 本人の“歩きたい”と言う意欲を向上するため、基本的に車いすは使わず、歩行器を使用しています。
  • 歩く距離に制限は設けていません。長い距離を歩いている方で、1日1.5㎞くらい歩く方もいらっしゃいます。
  • 室内だけでなく、積極的に外での歩行を勧めています。気分転換に繋がり歩行への意欲を増加させます。

1.排泄ケア

高齢になると、食事量や運動量が減ってしまい、腸の動きも低下し便秘になりやすくなります。
排便を促すためによく使われるのが下剤です。下剤は高齢の方の身体にとって大きな負担となり、ほかの障害を引き起こす要因になりかねません。
適切な水分・食事・運動をすることで自然排せつを促し、医学的な定義では便秘とならない様に3日以内の自然排便を目指します。

○当グループでの実際の取り組み
  • 腸内環境を整える為にオリゴ糖・もち麦・ヨーグルト・乳酸菌飲料等を使用しています。
  • 身体に大きな負担となる下剤を中止して、ファイバーを活用しています。

ここまででお分かりの通り、これら4つの基本ケアはお互いに影響しあう関係にあり、それぞれのケアが充実することで、より大きな効果が期待できます。
上記の数値で示した基準はあくまで目安です。それぞれ体格の違いや持病など個人により必要量は異なります。それらを見極め、一人ひとりにあったケアを行う事も大切です。

【自立支援介護のメリット】

〇生活の質向上
自立支援介護を実践することで、高齢の方が自分でできることが増え、生活の質(QOL)が向上し、ご本人の自信に繋がります。同時に生きることへの自信や意欲も生まれ、社会的・精神的な自立も促します。
〇介護負担の軽減
そして、介護の必要が少なくなり介護度が改善されることで、ご家族様の介護負担も減り、介護による離職の防止にも繋がります。
〇経済的負担の軽減
介護度が改善されるということは、健康であるということ。健康であれば、介護費や医療費の負担だけでなく、おむつ代などの生活用品の負担も少なくなっていきます。

【当グループの介護に対する姿勢】

今まで自分たちが行ってきたケアに根拠を持つために自立支援介護に辿り着きました。日々の業務の中でも常に話し合いケアの在り方を変えています。スタッフ全員が同じ方向を向いて日々のケアの実践が行えることがベストです。日々の介護現場では、“これが正解”と思えるものは、ほとんどありません。とにかく気が付いた事から取り組んでみる事が重要と感じています。そんな中でもこの自立支援介護は、理論的・科学的根拠に基づいて行われるため、自身をもって取り組む事ができます。自立支援介護に取り組む事で、利用者様や入居者様が目に見えて落ち着いて過ごすことができ、日々の生活の中で笑顔や笑い声が多く見れるようになると、スタッフもやりがいを感じる事ができるので、相乗効果になっています。

【施設責任者の声】

水分や栄養を必要な分きちんと摂取する、適度な運動を毎日行う、これだけで利用者さんの状態が大きく変わるんです。自立支援介護の取り組みをはじめて、利用者さんの変化に私たちスタッフもたくさんの刺激をいただいています。
利用者さんそれぞれに効果の違いはあると思いますが、昨日よりも今日、今日よりも明日、利用者さんが少しでも元気で穏やかな表情を見せてくれる事が今一番のやりがいですね。
今までお世話をする介護を中心に行っていましたが、自立支援介護を活用しながら、利用者さんの状態を見極め、利用者さんが自身でできる事を見守る・サポートする介護を実践していきたいです。
認知症デイサービスクリクリ金上 綿引瑞華(介護福祉士)

介護の仕事に正解はありません。スタッフの技術や知識、利用者さんの体調、こうした日々の変化に対して、科学的根拠に基づいたケアの実践は、スタッフの自信に繋がります。
職員一人ひとりが同じ目標・方向を向いて、意見を出し合いながら自立支援介護に取り組んでいます。
利用者さんの中には、目に見えて体調が改善し、落ち着いて日々の生活を過ごされている方もいらっしゃいます。笑顔や笑い声に囲まれながらのケアの実践は、利用者さんも我々スタッフもみんなが元気になれる相乗効果をもたらしますね。
小規模多機能ホーム・認知症グループホームクリクリ 寺門邦茂(介護福祉士)

【介護スタッフの教育・コミュニケーション】

理論的・科学的根拠に基づいて行われる自立支援介護には、スタッフの教育も不可欠です。必要な知識、適切な技術を身につけ、さらには日々の現場で研鑽を続けることが大切と考えます。

また、現場で得られた情報をスタッフ同士で共有する心掛けも大切です。思わぬ事故やトラブルを未然に防ぐため、発生した問題はスタッフ同士やグループ内で共有・検討し、解決できるようにしています。スタッフ同士のコミュニケーションを充実させることが、日々のケアの質を高める事に繋がります。

さらに、専門職制度を取り入れ、介護スタッフとしてのスペシャリストも育成しています。専門職としてのスキルを追求することで、業務に対する自信や日々の介護ケアの質向上に努めています。

栗田病院グループでは、こうした知識・技術の向上、コミュニケーションの醸成を目的とした教育環境も整えています。

【エピソード(改善事例紹介)】

栗田病院グループで実際に行われた自立支援介護の事例を紹介します。

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◆ケース1
80代/女性/レビー小体型認知症/要介護2

課題)
尿失禁の改善/リハビリパンツを外す

実践前の状態)
水分:お出しした水分を全部摂取する事は少ない。特にお茶は残しがちであった。
運動:「すぐに疲れた」と言い、あまり動きたがらない。自由時間になるとすぐに部屋に戻り横になる。
排泄:尿失禁・便失禁は顕著にみられる。リハビリパンツが必須。

取り組みの内容)
水分ケア:お茶を中心に1日1500ml以上の水分摂取を行う。
運動ケア:サポートしながら1日800m以上の歩行を行う。
排泄ケア:下剤を中止しファイバー及びオリゴ糖、もち麦、ヨーグルト等の乳酸菌を摂取。

実践後の状態)
水分:お茶を嫌がる傾向はあるが、現在では問題なくお茶も飲めるようになり、目標とする1日1500mlの水分も採れるようになった。
運動:「疲れた」と訴えはあるものの800m以上歩く事は可能。調子のよいときは、1000m以上歩く日も出てきた。
排泄:顕著であった尿失禁・便失禁は、数も大きく減少し、衣類を汚す事は少なくなった。ほぼ毎日の排便・便意もみられ、便の状態も普通便に戻った。下剤は中止を継続している。リハビリパンツは、本人の“まだ心配だ”と言う気持ちを尊重し現在も使用しているが、今後は外せる様にケアを続ける。

◆ケース2
80代/女性/アルツハイマー型認知症/要介護4

課題)
食事量の回復/イライラの改善

実践前の状態)
水分:ほとんど自力摂取しようとせず、水分不足は顕著。
食事:もともと小食であったが、腰痛悪化により食欲低下。自力摂取しようとせず、食物の吐き出しがみられた。
運動:腰痛悪化により痛みが強く、介助の際に拒否が強く出ていた。歩行は手引き歩行だが、ひざに力が入らずバランスを崩したり、短い距離でも支えながら歩行をしていた。
排泄:排便は適度にみられるが粘液便であった。
その他:易怒的であり、トイレ介助や入浴時にイライラは強く怒鳴る様子がみられる。

取り組みの内容)
水分ケア:ジュースなど甘い飲み物であるが1日500ml以上の水分摂取を行う。
食事ケア:食事量を増やすため、なるべく本人が好きな食べ物をペースト食にて提供。
運動ケア:手引き歩行であるが、1日200m以上の歩行を行う。
排泄ケア:ファイバーを使用し、便状態の改善を試みる。

実践後の状態)
水分:好きな飲み物とすることで、少しずつ摂取量が増加。1日600ml飲めるようになった。
食事:チョコレートやケーキなど甘い食べ物が中心であるが、徐々に食事量が増加している。
運動:しっかりした足取りで軽く支えるだけで歩行可能となった。
その他:日中のイライラも落ち着き、以前のように穏やかな表情で過ごされる日がふえた。

◆ケース3
80代/女性/レビー小体型認知症/要介護1

課題)
日中の傾眠を減らす/歩行状態の改善

実践前の状態)
水分:ほとんど自力摂取しようとしない。
栄養:ほとんど自力摂取しようとしない。
運動:ふらつき顕著にみられ、歩行時は完全介助を要する。
排泄:デイサービス利用時に度々尿失禁もみられた。
その他:一日中うとうとと傾眠傾向である時間が多い。

取り組みの内容)
水分ケア:1日1200ml以上の水分摂取を行う。
運動ケア:歩行訓練、立位運動、足の屈伸、足踏みなどの運動機能訓練を本人のペースに合わせ行う。

実践後の状態)
栄養:食欲が出てきており、自身でほぼ全量摂取する事がふえた。
運動:下肢の踏ん張る力がついてきてふらつきも減少、介助の必要性も減った。
排泄:定期的な誘導を行うことで、デイサービス利用中の尿失禁はみられなくなった。
その他:傾眠もほとんどなくなり、他利用者様と関わりを持つ姿もみられるようになった。

◆ケース4
83代/女性/アルツハイマー型認知症/要介護1

課題)
帰宅願望の軽減/便失禁の改善

実践前の状態)
排泄:トイレに向かうたび、少量ながら便の付着あり。本人も汚してしまったことに落ち込む様子をみせる。
その他:夕方になるにつれ「どうやって帰ろう」「もう帰らなきゃ」と不安気な表情で訴える。

取り組みの内容)
水分ケア:脱水による意識障害(帰宅願望)の軽減を図るため1日1800mlの水分摂取を行う。
排泄ケア:下剤の使用を中止し、ファイバーを使用。

実践後の状態)
排泄:便失禁も改善傾向がみられ、パンツえを汚してしまうことはめったになくなった。リハビリパンツを外せるよう現在も試行錯誤しケアを継続している。
その他:夕方になってもスタッフに対する帰宅要求は減り、他利用者様と楽しそうに会話されることがふえた。
また、以前より活気もよく、「(洗い物)私が洗ってあげる」など意欲的な発言もふえ、スタッフと一緒に家事仕事を手伝う様子もみられるようになった。こうした家事支援も帰宅願望の減少に繋がっていると思われる

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